「……」
返すべき言葉も見つからないまま,まさとは立ちつくしていた.波多野は,言うだけ言うと,すたすたと歩き出した.

そしてすれ違いざまに振り向いて;

「ずっと待たせたんだろ?そろそろ,男らしくはっきりしろよな」

波多野….

 

「お前たち,ほんとに付き合っていないのか?」
「かすみはただの幼なじみだよ」

「似たもの夫婦みたいよ」
「そうね,ちょっと…妬けちゃうな」

「ちょっとかすみを借りてくよ」
「何で俺に断るんだよ」
「だって,お前たち…いつも一緒じゃないか」

「ちょっと待て.俺はマジでなんもしてねーって」

「だからだろ?この鈍感!」

 

……そうだ.俺とかすみはいつだって一緒だった.でも,もう一緒ではなくなろうとしている.ラブレター.他の男.付き合うかも知れない.かすみが離れていく.だからか?だからなのか?この焦りは.

そう考えると,まさとは胸の奥がちくりと痛んだ.たぶん波多野は,かすみからいろいろと聞いているのだろう.そして,まさとが何もしないでいるのにいらだって,あんなに怒ったのだ.

やれ「少女趣味」だの「心配して損した」だのとかすみをいじめていたから,もうすぐかすみはいなくなってしまうのだ.俺の望みどおり.言葉どおり.

いや!待て.待ってくれ.望みどおりなんてことはない.絶対そんなことはない.

……かすみ!




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